この記事では、
- 客先常駐しているけど全然自社に帰属意識が持てない
- 帰社日、飲み会が面倒
という方に向けて、その理由を10年近く客先常駐をしていた私の経験や論文から読み解いていきたいと思います。
この記事を読むことで、
- 客先常駐していると自社に帰属意識が持てなくて当たり前
- 飲み会、帰社日、面談が嫌で当たり前
- 帰属意識が持てる会社とはどんな会社?
が分かるようにまとめましたので是非参考にしてみて下さいね。
Contents
帰属意識を低下させる色々な要因
自社との関わり合いが無くなる
客先常駐エンジニアは、客先にフルタイムで勤務することから、勤怠管理システムへの入力や業務報告書の提出など最低限の決まり事以外殆ど自社と関わり合いを持たなくなります。
帰社日を無理やり設定している会社もありますが、せいぜい数カ月に1度、数時間です。会社との関わり合いが深まることはありません。
そうこうしているうちに、一体どの会社で働いているのか?全く分からない状況となります。
更に、顧客のために身を粉にして働いているうちに、いつのまにか現場に愛着がわいてくることがあります。そして、客先のエンジニアと人間関係が深まるほど、自社の社員とは距離が離れていきます。
勤務先がコロコロと変わる
プロジェクトが終われば、勤務先も変わることになります。
人間関係もリセットされます。
そして、下請け会社の場合、元請けの名刺を持たされることになりますので、もはや自分が何者か全く分からない状況になります。
最近では、作業PCもプロジェクトルームに据え付けられているものを使うことが多いため、新しい環境にも慣れないといけません。
このような、オールリセットがプロジェクトの度に起こる訳ですから、まるで転職を繰り返しているような状況です。
本当に自分が必要とされているのか分からない
客先常駐社員は、自社から労われるということがあまりありません。
一方で、社内待機の状態になった場合、上司や経営陣からは「Aは90万円で売れたのに、Bは70万円でも売れずに売れ残っている」とまるで売れ残りの不良在庫扱いを受けることになります。
私も、部長が「遊ばせてるのなら、単価が低くても手っ取り早く入れる現場に入れてしまえ!」と話しているのを聞いたことがあります。
これでは自分が本当にその会社に必要とされているのかまるで分からなくなっても当然です。
報われない、評価されない
そもそも、バグがミスが無いことが前提で褒められることは少ない業界ですが、それに加えて客先常駐の場合は会社の人が誰も見てくれず、いくら頑張っても褒めて貰えないということが起きます。満足感を一緒に分かち合うこともできません。
その一方で、客先からクレームを受ければ会社から叱られる訳ですから、報われないと思っても無理からぬことです。
更に、現場に上司がいないため人事評価がまともに行われません。下手をすると営業がヒアリングした客先評価が自身の評価に大きく影響してしまうこともあるのです。
なんのための人事評価なのか、単純に給料を抑えているだけなのではないのか?疑問を禁じ得ません。
自分の机がない
客先常駐では、客先に用意してもらった机で作業をすることになります。開発現場によっては、長机で作業することもあります。
一方、自社には自分の机を用意してもらえないことがあります。
最近では流行りに乗って「フリー・アドレス」制をとる会社が多くなってきていますが、いつの間にかシマが形成されてしまい、せっかく帰社しても座わってよい場所が分からず、途方に暮れて立ち尽くす人が生まれています。
ここは本当に自分の会社なのだろうか?客先常駐エンジニアの心の叫び声が聞こえてきそうです。
自社で仕事をする社員と微妙な関係になる
SES会社でも運よくプロジェクトルームを自社に設けることが出来たり、自社サービスを開発している場合があります。
そのような場合、自社で作業する社員がいる訳ですが、そういった社員からすると、数カ月に一度顔をみせる客先常駐社員の顔を知らないこともありますし、「誰だこの人?」と不審者にすら見えることがあります。
一方の客先常駐社員も同じように感じています。
知らない社員と顔を合わて気まずいだけでなく、不審な目で見られることになり非常に居づらい思いをするのです。自分たちが先頭に立って売り上げを稼いでいるのにも関わらずです。
なぜ自社がこんなに居づらいのか?あまりに理不尽な現実だと言えるでしょう。
尊敬できる上司も先輩もいない
一人で客先常駐する、自分がPLとして後輩を引き連れて客先常駐している、尊敬できる先輩や上司がいない状態で仕事を続けなくてはなりません。
炎上プロジェクトなどの厳しい仕事では、この人の為に頑張ろう!と思うことができる先輩や上司がいることで、なんとか走り切ることができるものです。
逆にそういった人が自社にいなければ、その会社で働く意味もそう大きくは無いことになります。
意味不明なシステムがある
ある会社では、何カ月も客先常駐するだけなのに、毎日自分の行動予定を勤怠管理システムに入れさせるということがありました。
毎日同じ客先で仕事をしていますし、自社に電話がかかってくるわけでもないのに、何の意味があるのでしょうか。
また、残業の管理も厳しく、残業の申請をしないと残業ができないようなこともありました。
結果、残業申請をし忘れた人はサービス残業となってしまいました。残業代をカットするためにわざとサービス残業をするよう仕向けているのではないのか?と思わざるを得ません。
客先常駐エンジニアは給料が低いため、残業代で食っているようなものですから、サービス残業は自分の首を絞めるようなものです。
なんともやるせない状況でした。
更に、業務週報を書かせるということも行われており、客先で堂々と業務時間内に会社の週報を書く訳にいきませんから、結局家に帰ってから書く羽目になりました。早く休みたいのに、最悪な時間の使い方です。
客先社員との格差
客先常駐をしていると、自分と客先社員との格差に愕然とすることがあります。
仮に客先社員以上に頑張って仕事をしても下請けのSES会社は福利厚生や給与面で客先の会社に圧倒的に劣っていることが多いのです。
例えば、私の場合、殆ど自社で教育を受けさせて貰ったことが無く、自分でお金を払って業務時間外に血反吐を吐くような思いで勉強をしていたのですが、客先の社員の場合、会社で研修を受けさせてくれ、数日間に渡って業務時間内で勉強をすることができていました。
この現実を目の当たりにして、悔しくて泣きましたね。
資格取得の勉強をしてね、給料は上がらないけど
SES会社の場合、エンジニアが資格を取得していると、現場の要件を満たしやすくなる≒待機なしに現場にぶち込めるのと、高単価の現場に入れやすくなるため、資格取得を大いに奨励します。
それにも関わらず、テキストを買ってくれる訳でもありませんでしたし、勉強を業務時間内にすることもできませんでしたね。結局、貴重なプライベートな時間を削って勉強するしかありませんでした。
勿論、資格取得をすれば、資格給で月幾らかは支給されるようにはなってしましたが、月1,000円位だったでしょうか、ほんの微々たるものでした。
これでは何のために資格を取るのか分かりません。干からびたニンジンをぶら下げられても馬は走れないのです。
会社がやる無駄な対策あるある
上記のように帰属意識がガタ落ちしている状況では、離職率も上がりますから、会社としては様々な対策を打とうとします。
以下の表では会社が打つ無駄な対策と社員の気持ちをまとめてみました。
無駄な対策 | 社員の気持ち |
定期的な帰社日、自社ミーティング |
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飲み会、忘年会 |
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レクリエーション(休日に強制参加) |
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社内報 |
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悩み相談(カウンセリング)や面談 |
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研修・勉強会 |
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社員旅行 |
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経営者の壮大なビジョンや理想の提示 |
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なぜ無駄な対策をしようとするのか
なぜ時間とお金をかけてこのような無駄な対策を打つのでしょうか。
いうまでもなくこの理由は帰属意識を持たせて会社を辞めさせないためです。
毎年離職率は数十%を超えるという状況をなんとかしようと、経営陣が四苦八苦して様々な対策を打つのです。
しかし、SES会社では多くの社員が、
- メリットがない
- わざわざ仲良くもない会社の人と何かをしたくない
と感じています。
このように、会社側と社員との意識のギャップが生じている状況です。
それはなぜか?論文を参照しながらより踏み込んで考えてみたいと思います。
なぜ帰属意識が下がるのか論文から読み解く
上記したことは経験的に言われていることです。
これをより統計的に研究した論文から読み解いてみたいと思います。
今回参照する論文はリクルート ワークス研究所・主任研究員である豊田 義博氏の「組織アイデンティティは自我アイデンティティを高めるか―モチベーション誘因の体系化を通した検証―」です。
この論文では、それぞれ業種の違うA社、B社、C社、D社それぞれで調査を行って得た1984人のサンプルを元に統計的に分析が行われています。
結論を言うと、「会社との関係での満足感」つまり我々が言う「帰属意識」を高める最大の要因は「組織アイデンティティ」であるとのことです。
A社、B社、D社は平均勤続年数が15年を超えている一方で、C社は3.5年と圧倒的に少なく、平均年齢も圧倒的に低いのですが、C社であっても同じ結果だったのです。
とても興味深い結果なのですが、この「組織アイデンティティ」とは何か?をもう少し詳しく見ていきたいと思います。
論文では「組織アイデンティティ」は以下のような要因で構成されると定義されています。
- 会社への愛着自社
- (社員であること)へのプライド
- 会社への所属意識
- 「自社の人間」という実感頻度
- 会話での会社の話題の頻度
- 自社内での友人の人数
- 自分に影響を与えた人の存在
これを見ると、客先常駐をしている時点で全て×が付くことが分かりますね。SESというビジネスやっている時点で×なのです。
年に数回しか会社に帰らない客先常駐エンジニアが「自社の人間」という実感がありますか?と質問に対してイエスという訳ありません。
そして、会社がよく行うレクリエーションや飲み会も、上記の要因と照らし合わせると、そんなことで「社員であることへのプライド」が上がるの?という「コレジャナイ感」が強く感じられます。ズレズレなんですね。
ですから、社員にとっては強制感が強く出てしまうということなんですね。
更に、この論文では、”仕事への満足感”が、”会社との関係での満足感”や”自分らしさ”につながる循環が示唆されています。
「仕事への満足感」とは「仕事自体の楽しみ」であるとのことです。
結局、仕事自体に楽しみが持てなければ、帰属意識も持てないということなんですね。
客先常駐で仕事に楽しみを感じられるか?と言われると、現場によると言わざるをえません。
「きつい」「帰れない」「給料が安い」という3K状態では、楽しいもクソもありませんし、運用監視はとてもつまらないものです。
これは客先常駐をしている限りどうしようもないかもしれません。
なお、「仕事満足」や「会社との関係での満足」が「仕事を続ける意向」や「会社に居続ける意向」につながるのは言うまでもありません。
倒産寸前のITベンダーから間一髪で脱出した元客先常駐エンジニアから話を聞きました
作業開始時は残業とは無縁でしたが、計画停電により作業が出来ない時間が発生し続けた上に納期厳守は変わらなかったので、何日も徹夜で泊まり込みする必要が出たわけです。
しかし、泊まり込みを行って作業をしても工数に変更なしという状況から、単に待機時間が長いだけとなったために残業扱いとはなりませんでした。次第に同僚が退職して人数は減る状況でありながら、追加の人員補充は一切無い状況に疲弊しました。何より自社の経営状況が悪化しており、プロジェクトが終わった後の仕事が未定という状況が恐ろしかったです。
話を元に戻しますが、それで転職活動を始めたと。時期が時期だけに大変だったのではないですか。
仕事の面では、客先への導入作業ではなく、本社でのシステム開発を行うだけで良いという毎日同じ職場への通勤が出来るメリットが嬉しかったです。プロジェクトごとに客先を転々とする必要が無く、社内作業で基本的には済んでしまうことから計画的に仕事を行えるようになりました。クライアントからの変更点は、専門の担当者を挟んでやり取りされるので変更点が山積みで残業だらけという状況には陥りません。開発業務に専念できる環境がいかに精神的にも安定して仕事に取り掛かることが出来るのか、転職して初めて実感出来ました。総合すると満足度は100点中85点というところです。
参考文献
豊田 義博, 2008, 「組織アイデンティティは自我アイデンティティを高めるか―モチベーション誘因の体系化を通した検証―」