常駐エンジニアは有給休暇を取りにくい環境に身を置いています。
その最大の原因は、常駐先と所属会社の板挟みである常駐エンジニアならではの立ち位置です。
この記事では、
- 有給を取りたいけど、取れる雰囲気じゃない。もう疲れた。
- 実際に有給申請を拒否された。
という常駐エンジニアに向けて、有給休暇の正しい知識、常駐エンジニアが有給休暇をスムーズに取得するポイントや、有給休暇を拒否されたときの対処法についてご紹介します。
本来であれば労働者である常駐エンジニアも自由に有給休暇を取得でき、その権利は法律でも守られています。
上手く立ち回れば有給休暇を取得することは可能なのです。
自分の権利を守るために、まずはその権利について正しく知ることから始めてみましょう。
Contents
常駐エンジニアの有給の取りにくさは異常
一緒に常駐している上司からの拒絶
常駐エンジニアは雇用元の所属会社の上司だけではなく、常駐先の現場にも上司がいます。
本来雇用者に申請すれば容易に取得することのできるはずの有給休暇ですが、常駐先にも許可を取らなければならないという暗黙のルールが成り立っているケースが多く、有給休暇取得が困難なことが多いのです。
しかも、有休をとる旨を伝えると、ねちねちと小言を言われたり、有給休暇を取得すること自体を拒否されたりするケースも多くあります。
客先への忖度や気遣いで取りにくくなる
また、雇用元の所属会社にとって、常駐先はお客様です。
常駐先に負担がかかること、嫌な顔をされることは極力避けたいというスタンスであることも多いため、常駐先の顔色をうかがって上司から有給取得申請を拒否するケースも多々あるでしょう。
最も有給が取りにくくなるケースは、SIerの下請けをしている場合です。
SIerからの仕事が生命線であるSES会社は、営業的な側面からSIerの担当者の顔色を伺いながら仕事をしています。
そうでなくても、SIerの現場は炎上しやすいことが一般的です。
SIerのプロジェクトが炎上するというよりも、むしろSES会社が好んで社員を炎上プロジェクトに投入していると言えるかもしれません。
実際、私が投入されたプロジェクトもほぼ8割が炎上していましたね。
炎上している現場では有給を取ることが難しいと言うのは火を見るよりも明らかです。
有給休暇を法的に知っておけば身を守ることができる
まず大前提として、有給休暇取得は労働者の権利であり、いつどんな理由で取得しようとも構わないものです。
雇用者には、労働者の有給休暇取得を拒否する権利が基本的に「ない」ということを念頭に置いておきましょう。
労働基準法第39条では、労働者の年次有給休暇の規定が定められています。
労働基準法第39条
使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
(引用元:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049#212)
つまり、入社してから6か月間、全労働日の8割以上出勤した労働者には、必ず10日間の有休休暇を付与しなければならないと、法律で定められているのです。
有給休暇取得は労働者の権利であり、本来は会社側にはそれを拒否する権利はありません。
また、有給休暇取得の目的も雇用者の自由であり、取得理由の詳細を雇用者に共有する必要もないのです。
ただし、企業には時季変更権という権利が認められています。
労働基準法第39条第5項
請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる
(引用元:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049#212)
では「事業の正常な運営を妨げる場合」とは、どのような状況でしょうか。具体的には、
- 代替人員の確保が困難な労働者が、休暇開始日直前に長期間の有休休暇を申請した場合
- 複数名の労働者が同時期に有給休暇を申請した場合
というような状況が挙げられます。
ただし、この理由だけでは時季変更権は行使できません。以下の内容を考慮したうえで、人員調整が極めて困難な場合には行使可能になります。
- 事業所の規模や業務内容
- 有給休暇を申請した従業員の担当している職務内容や職務の性質
- 職務の繁閑
- 代替要員確保の配置の難易、同時季に有給休暇を指定した員数
- これまでの労働慣行など
ただ単に人手不足で休まれるのは困るという理由は会社側の都合であり、有給取得を拒否する理由にはなりません。
時季変更権を乱用すると雇用者側は罰せられるリスクがあり、現実的には行使しにくい権利なのです。
例え現場が炎上していようと、納期が迫っていようと、タスクが残っていようと、労働者が有給休暇取得を拒否する理由にはならないのです。
これで時季変更権が認められてしまったら、理屈としては一生有休が取れなくなってしまいます。
有給休暇をスムーズに取得するために大切なことは「計画性」
上でまとめた通り、有給休暇を取得することは労働者の権利であり、拒否されることは法律上あってはならないことです。
しかし、雇用元と常駐先の間に挟まれる環境に身を置く常駐エンジニアは、有給休暇取得を拒否されるケースが多々あるということも事実です。
だからと言って、常駐エンジニアは有給休暇を取得できないということではありません。
結論から言うと、有給休暇をスムーズに取得するためには大切なのは「計画性」です。
スムーズに有給休暇を取得するために押さえておきたいポイントをまとめてみましょう。
申請は1か月以上前に
突然1週間や数日前に「この日に有給休暇取ります」と伝えれば、たとえ常駐エンジニアでなくとも印象はあまりよくありません。
有給休暇を取得したいのであれば、年間を通してあらかじめ計画を立てて日数消化をするようにしましょう。
人にもよりますが、有給休暇は年間15~20日程度あるケースが多く、少なくとも最低10日間はあります。
月1~2日を計画的に取得するようにし、その申請も1か月以上前にしておけば、拒否する理由を作ることの方が難しくなります。
2019年4月より最低5日の有給休暇取得が義務になったため、余裕をもって申請しているにも関わらず有給休暇を許可しなければ、雇用者側は処罰対象となってしまいます。
また、計画的に有給休暇を消化しておけば、退職時に消化できなかった日数が残るということが起きにくくなります。
優良企業であれば、退職時にまとめて有給休暇日数を消化してくれる場合もありますが、常駐エンジニアは退職時にまとめて有給休暇を使うと、派遣契約の期間中であった場合、実質的に客先に迷惑をかけることになってしまうためあまりいい方法とは言えません。最悪トラブルに発展します。
業界自体が狭いため、退職後に悪いレッテルを貼られると転職活動や転職後に支障を来すリスクもあるため、有給休暇は退職前の転職活動や勉強のために計画的に消化しておくことをおすすめします。
伝える順番は、客先の担当者→雇用元の上司
始めに書いた通り、常駐エンジニアは有給休暇を取得するために、客先の担当者(PLやPM)と所属会社の上司の両者に許可を得なければなりません。
最初にどちらに申請をするのがスムーズでしょうか。
両者の関係性を考えれば、答えは明らかです。まずはPLやPMに話を通しましょう。
所属会社にとって客先はその名の通り、お客様です。
お客様の信用を失うこと、印象が悪くなるようなことは、今後の契約にも影響が及ぶため極力避けたいと考えています。
忙しい時期や、客先がいら立っているようなタイミングで、自社のエンジニアの有給休暇取得の報告などもちろんしたくはないでしょう。
つまり、客先の上司が有給休暇取得にOKを出しているということであれば、話が早いのです。
上で書いた通り、前もって1か月以上前には常駐先の上司に、この日に有給休暇を取得したいという旨を伝えて許可を取り、所属先には「現場でOKもらっています」と伝えて許可を取るという流れがスムーズです。
本当の理由を伝える必要はない
「嘘も方便」ということわざの通り、有給休暇を取る本当の理由をすべて伝える必要はありません。
「友達と遊びに行きます」という理由と「定期通院の予定があります」という理由では、受け取る相手はどちらが納得しやすいでしょうか。十中八九後者の方が理解を得られるでしょう。
有給休暇はいかなる理由であろうと取得は可能です。
本来理由の詳細を伝える必要すらありませんが、やはりある一定の理由は用意しておく必要があります。
本当の理由である必要はありませんので、いくつか理由を用意しておくと良いでしょう。
例えば、
- 親の介護で病院に付き添う
- 子供の行事がある
- 勉強会に参加する
- 親戚が遠方から訪ねてくる
などなど、理由はいくらでも後付け可能です。
また、ぜんそくや腰痛など、定期的に通院を必要とする持病があるということを伝えておくことで、有給休暇の取得がしやすくなるケースもあります。
似たようなケースで、折に触れて「あの時にあんな理由で休みやがって、許さん」みたいなことを言っている人がいましたよ。
突然「有給休暇を取りたい」と伝えるのではなく、事前に計画を立ててから伝えることで、取得を拒否される可能性は低くなります。
どんな理由でも受け入れてもらえない場合は、ブラック企業の可能性も高まります。
その場合は転職も真剣に視野に入れておきましょう。
有給取得を拒否されるケースとその対処法
労働者側である常駐エンジニアがどんなに筋を通して有給休暇取得の申請をしても、拒否されることがあります。いくつかのパターンに分けて、その対処法をご紹介します。
常駐先の担当者(PL、PM)に拒否される
本来、常駐先の上司は常駐エンジニアの雇用者ではなく、有給取得を拒否する権利は持っていません。
しかし、常駐先から仕事をもらっている以上、常駐先に拒否されてしまうと事態はややこしくなります。
上のポイントで書いた通り、1か月以上前に伝えても拒否されるようなら、いつなら取得できるか、代わりの日程を聞いてみましょう。
所属会社の方で許可が出ているようであれば、「自社の方はOKもらっています」と伝えることで解決することもあります。
それでもどうにもならないようならば、所属会社の上司に状況を伝えて動いてもらいましょう。
所属会社がまったく動いてくれないようであれば、転職を検討することをおすすめします。
所属会社の上司に拒否される
基本的に、客先に迷惑をかけたくないという考えがあるため、有給休暇取得を拒否されることがあります。
また、場合によっては客先から圧力がかかっていることもあるようです。
労働基準法に違反しているという話を持ち出せば、一定解決可能です。
しかし、この方法を取る場合、会社に対立する姿勢を見せることになるため、転職を前提とする覚悟をしておいた方が良いでしょう。
中にはとんでもないブラックなSES企業もあるため、まったく取り合ってくれないようであれば、精神や体を病む前に早々に転職を検討しましょう。
退職時の有給休暇消化を拒否される
客先常駐の場合、退職時の有給消化は拒否されることがとても多いです。
理由は言うまでもありませんが、実質稼働できるSEの頭数が減ってしまい、客先に迷惑をかけてしまうからですね。
代わりの人員を確保できない状況であれば、有給取得は拒否される可能性が高いでしょう。
ただし、本来会社側に拒否する権利はありません。
「労働基準監督署に相談させていただきます」と強気で伝えれば、交渉は優位に進められるでしょう。
スムーズに退職したいのであれば、SES契約期間が終了するタイミングで交渉するのがベストです。契約期間内でこれをしてしまうと、客先とのトラブルに発展する上に、自分自身に悪い評判が付いて回る結果になるので、あまりお勧めできません。
離職後に違う業界で働く、別に遺恨を残しても気にならないという場合は、強気で事を進めても問題ありません。
しかし、やはり一番良いのは、普段から計画的に有給休暇を消化しておくことです。
客先常駐で頑張れば頑張るほど有給が取りにくくなる
有給をキッチリ取る部下、有給を取らずに馬車馬のように働く部下、どちらを選ぶかと言えば、恐らく後者と答える人が多いのではないでしょうか。
やはり、鉄火場に投入された時に評価されるのは、悲しいかな寝食を忘れて働くエンジニアであることに疑いようはありません。これが日本の現実です。
プライムベンダーや顧客の立場からすると、自分たち以上に働いてくれるエンジニアを評価しますし、自分たち以上に休みを取るエンジニアは評価したくないのです。
ということで、SIerのプロジェクトでは有給は一切取らずに機械のように働く他ありません。
では、1つのプロジェクトが終わった後はどうでしょうか。
評価の高いエンジニアは、プライムベンダーから継続してプロジェクトに招聘されるようになります。
主に開発系エンジニアはこのようにして仕事をつなげていくことが一般的です。
結果、頑張れば頑張るほど仕事が増えますし、以前のような働きを期待されて激しい現場に投入されることも多くなります。
単価も上がっていきますが、有給が取りにくいことに変わりはなく、心身ともに疲弊していきます。
更に、評価されなければ次の現場がなくなる、クビになるというプレッシャーが付いて回るので有給も更に取りにくくなるという負のスパイラルに陥ります。
これはSES・常駐と言うビジネスモデルをしている限り、終始ついて回るものです。
ですから、有給をしっかり取れる人間的で有意義な社会人生活を送りたければ、SES会社は辞めた方が良いと言えます。
客先常駐からの華麗な脱出劇!自社開発企業に転職した人に話を聞きました
たくさんある内の1つの事業部で、システム保守や導入をメインに仕事をしていましたが、残業時間も多く、トラブルが多発していたので定時に帰れることはほとんどありませんでした。
また、駐在先の人間関係も悪く駐在者を下に見ている感じが否めなかったので、居心地がとても悪かったです。
必要なケーブルや部品を安く購入しても、本当に必要だったのか、もっと安いところはなかったのか、承認はとったのかと何度も聞いてくることも不満に思いました。
ずっと、5年ごとに異動しますが、この環境にあと3年いないといけないと思うと耐えられず、転職をすることにしました。
経理システムを自社で開発する会社でとても保守よりもやりがいを感じました。
また、人間関係も良くて、大きい会社ではありませんが、風通しが良いので仕事がやりやすいです。
サポート業務もないので、開発に集中できる環境です。
働き方改革で残業時間も適正なので、プライベートも充実しながら、SEのやりたかった仕事をできるようになったので、良かったです。
転職先がすぐに決まるか不安でしたが、担当者の方がたくさん紹介してくれたので3か月で決まりました。満足度95点ですね。
まとめ
以上をまとめます。
- 常駐エンジニアは立場上有給休暇を取りにくい環境にいる
- 有給休暇取得は労働者の権利であり、法律で守られる
- 雇用者に有給取得を拒否する権利はない
- 有給休暇の取得は計画的に
- 有給取得を拒否されたら適切な対処と転職を検討しよう
この記事の中で何度もお伝えした通り、有給休暇を取得することは労働者の権利です。
当然の権利を行使できない場で働き続けることは、長い目で見てもメリットはありません。
年5日の年次有給休暇を確実に取らせないといけない以上、有給休暇の取得を拒否する企業は違法行為をしている訳ですし、ブラック企業である可能性が極めて高いです。
そこに長時間労働や未払いなどの事象が重なれば、間違いなくブラック企業と言っても過言ではないため、自分を守るためにも早めに転職を検討することをおすすめします。