現在日本では、15人に1人が一度はうつ病にかかると言われています。
更にIT業界のエンジニアはただでさえ病みがちです。
労働者健康福祉機構の調査※によると、IT業界の抑うつ状態自己評価尺度(CES-D)の平均値は17.7点となり、一般的に抑うつとされる16点を上回っています。
※IT関連企業従業員のメンタルヘルスを中心とする健康状態に関する調査(平成 24 年度)
これが、炎上プロジェクトとなると、事態は更に深刻です。
私は炎上プロジェクト参画をきっかけにパニック障害や鬱にかかった人たちを何人も見てきました。
電車に乗れなくなった人、自死しようとした人・・・枚挙にいとまがありません。
鬱にかかった人は仕事復帰までに時間がかかりますし、投薬を続けないと日常生活が送れないというケースも多く、とても大きなデメリットがあります。
このページでは、
- 炎上プロジェクトに投入されてしまった
- 鬱になりそう
- 顧客や上司に怒鳴られる
- 毎日の疲れが取れない、朝起きれない
という人達に向けて、炎上プロジェクトで鬱になってしまう原因や、鬱にならないための対処法、注意したい鬱の傾向などについてご紹介します。
Contents
鬱になりやすい人の傾向とは?
鬱になりやすい人には以下のようにある一定の共通項があると言われています。
- 几帳面
- 生真面目
- 完璧主義
- 凝り性
- 物事を一人で抱え込みがち
- 人に気を使いがち
この中で自分の性格に多くあてはまる項目があれば、鬱になる可能性があると考えられます。
こういった性格のグループを、「メランコリー親和型」と言います。
これまではこの要因が一般的だと考えられてきましたが、近年従来のこの傾向の他に、別の要素も関係していることが分かってきています。
- 自己愛、自尊心が強い
- 依存心が強い
- 傷つきやすい
いわゆる「自己中心的」ともとれる特徴ですが、このグループは「ディスミチア親和型」と呼ばれます。
こういった人たちが患う鬱は「新型うつ」と呼ばれ、近年増加傾向にあるのです。
どちらも気づかないうちに患っていることが多く、自覚が遅れると最悪死につながります。
炎上プロジェクトは鬱発症のトリガーになる
では、視点を炎上プロジェクトに移してみましょう。
炎上プロジェクトはその名の通り、ファイヤーがバーニングしている状態のプロジェクトです。
もとい、残業、休日出勤、長時間労働はもちろんの事、家に帰れない、不規則なスケジュールで対応を要求されるなど、理不尽なことだらけのプロジェクトのことを指しますね。
- 終電オーバー
- 毎日タクシー帰り
- 土日出社強制
という状態になるのが一般的です。更に、上司や顧客などから厳しく叱責されるような場面もあるでしょう。
また、PMなどプロジェクトの責任者であれば、元請けと下請けに挟まれ、無意味な進捗報告をすることを強要される、人員増を要請しても人を充ててもらえない、チームメンバーともうまくコミュニケーションが取れずに孤立していくなど、多くのストレスがのしかかってくる状況でしょう。
こんな環境に鬱になりやすい性格の人が身を置いた場合、どうなるかは容易に想像できますよね。
メランコリー親和型の人は責任感が強く、感受性も強いため、炎上プロジェクトに参画してしまうと、十中八九鬱発症の引き金を引いてしまうでしょう。
またディスミチア親和型の人も、炎上プロジェクトでは自分自身も周囲もコントロールできない上に、上司やチームメンバーから叱責され自尊心を傷つけられるようなことが多々起こりうるため、やはりこちらも鬱を発症しやすくなるでしょう。
炎上プロジェクトで鬱にならないためには自ら行動する必要がある
エンジニアである以上、炎上プロジェクトは回避したくとも避けては通れないものです。
プロジェクトの規模が大きくなればなるほど、ミスがまったく発生しないなんてことは基本的に起こり得ません。突然既に炎上している現場にアサインされることもあり得るでしょう。
炎上の度合いは様々ですが、エンジニアとして働く以上、炎上プロジェクトに当たってしまう可能性は十分にあります。
では、炎上プロジェクトに当たってしまった場合、どうすれば鬱発症を避けられるのでしょうか。
炎上プロジェクトに対峙する上での姿勢を含め、いくつか対処法をご紹介します。
自分一人の力ではどうしようもないと認識する
多くのエンジニア(特に抑うつ傾向にある人)は、こんなに辛いのは自分のせいだと、無意識に自分を責めます。
しかし、プロジェクトが炎上する理由は、自分以外の理由であることが殆どです。
多くが、
- ユーザーの予算
- プロジェクトの納期
- 営業の能力
- 開発者リソース
- PMのマネジメント能力
などに原因があります。
もしくは上述したような原因が複合的に絡み合ってどうしようもなくなり炎上するというのが日本のSIer現場でよくみられる光景なのです。
そう考えるとあなた一人が頑張って解決できる問題ではないというのは自明です。
自分を責めずに、他に原因を求めて下さい。こうすることで自分の心を守るのが第一歩です。
あなたはプロジェクトを進めるためのコマの一つにすぎないという身も蓋もない現実がそこにはあります。
そう思ったら体を壊すまで頑張る意味などないということにも気がつくのではないでしょうか。
アラートを出し続ける
「これはまずい、炎上するぞ」と、炎上を予感した時点で上司に状況を報告し、対処しなければ炎上してしまうということを伝えましょう。
それによって人員を増やす、スケジュールを見直すなどの対処をすることが出来れば炎上を回避できるかもしれません。
最悪対処が遅れて炎上してしまったとしても、対処をまったくしていないわけではないので、火消しがしやすくなる可能性はあります。
一言伝えるだけでは足りないので、権限を持った人が対処のために動いてくれるまでアラートは出し続けましょう。
やるべきことをとにかく黙々とこなす【ただし短期間のみ】
これは最悪の方法ですが、淡々と自分の業務をこなし、最速で離脱するというのも手ではあります。
精神力のタフさが求められる対処法ですが、期限が決まっているのであれば、このスタンスで乗り切ることはできるでしょう。
ただし、メランコリー親和型に該当する人の場合、周囲の状況が気にかかり、自分のミッションだけをこなせばいいと考えることは難しいため、無理をしないほうが良いです。メランコリー親和型の人にとっては、こういった場面で無理をし、すべてを自分で抱え込んでしまうことが鬱発症のきっかけとなってしまいます。
また、人員がそもそも足りないという致命的要素がある場合、増員という解決法を取らなければ根本的な解決とはなりません。
増員すらせず、一人でこなすには無理がある仕事を無茶振りされる状況になってきたら、自分の身を守る手段を考えましょう。「炎上させたのは私ではない」くらいの心持でいてもいいのです。
いずれにせよ、この方法はお手伝い程度の短期間であることが絶対条件です。
期限が決まっているからこそ人は耐えられます。
いつまで炎上プロジェクトに居なければならないのか分からないのであれば直ぐにアラートを上げましょう。
プロジェクト外部の人間に相談する
プロジェクトの内部事情は、外部の人間にはわかりづらいものです。
炎上し始めている、既に炎上している現場に身を置いていると、「なんだかおかしい」という感覚も麻痺して薄れてきてしまっていることがあります。
もしプロジェクト外に親しい人や、信頼できる上司がいれば、なんとなく違和感がある現状を相談してみましょう。
客観的な視点から意見をもらうことで、炎上のリスクに気づくこともでき、早期に対処することも可能になります。また炎上の最中に、自分が通常ではない仕事をしていることを再認識し、鬱になってしまう前にセルフケアをすることもできるでしょう。
逃げる(退職する)
いつでも逃げるという選択肢も用意しておきましょう。
「三十六計逃げるに如かず」という言葉がありますが、実害を最低限に抑えるという戦術も時には必要です。
やはり一エンジニアの立場で炎上プロジェクトというモンスターと戦うのは無理があります。竹やりで水爆と戦うようなものです。
まともな会社であれば、退職だけではなく、休職という手段もあるかもしれません。
いずれにしても、今後生きていくうえで何よりも大切なことは、自身の健康です。
炎上プロジェクトを乗り切ったとしても、それをきっかけに鬱を発症してしまえば、その後の生活に大きな支障が残ることになります。自らの命を危険にさらしてしまうリスクもあります。
炎上している現場の従業員が疲弊してボロボロになっていても気に留めず、エンジニアを使い捨てするような会社にしがみつく必要はありません。
そのような会社にはどんなに助けを求めても無駄です。会社に見切りをつけることも必要です。
精神が崩壊してしまいそうな感覚、鬱の兆候など異常を感じ、自分ではコントロールできなくなってしまった場合は、命に危険が及ぶ前に逃げる(退職する)という選択も必要だということを認識しておきましょう。
現代の日本には職業選択の自由があります。我々にはいつでも好きな時に会社を変える権利があります。うしろめたさを感じる必要はありません。
こんな症状が出たら要注意!鬱かもしれません
鬱を患ってしまったエンジニアの多くは、気付いたらもう鬱になっていた、思えばあれは鬱の兆候だったのかもしれないという体験をしています。
では、鬱発症にはどのような兆候が表れるのか、いくつかご紹介しましょう。
- やり場のない怒りが込み上げ、それを抑えられない感覚に襲われる
- 焦燥感や不安が常にある
- 胸を締め付けられるような感覚がある
- とっさに言葉が出ない
- 喉の奥に何かが詰まっている感じがする
- 眠れない
- 過食または拒食
- 慢性的な頭痛や体の痛み
- 疲労感がまったく抜けない
- 人との会話が減った、または避けてしまう
- 趣味や好きなものを楽しめない
また、上記の労働者健康福祉機構の調査においては、以下の項目と抑うつ傾向には強い関連性が見られるとのことです。
- 「物事に集中できない」
- 「憂うつである(気分が沈んでいる)」
- 「何をするのも面倒である」
- 「何か恐ろしい気持ちがする」
- 「不満なく過ごせる」訳ではない
- 「毎日が楽しい」訳ではない
- 「仕事が手に着かない」
すべてに該当しなくとも、いずれかが10日以上続いているようであれば、体から何らかのSOSサインが出ていると捉えてください。
周囲に相談しても、自分もよくあるよ、そのうち良くなるから大丈夫と言った答えが返ってくることもあるかもしれません。しかし、自分の体を誰よりもわかっているのは自分自身です。
体からのSOSサインを見逃さず、早めの対処をすることをおすすめします。
また、もし家族など親しい人から、一度病院に行くことを勧められた場合、それを突っぱねずに受け入れてみましょう。
自分で抱え込んでしまう人の場合、人に相談することが出来ずにどんどん症状が重くなっていってしまいます。しかし家族など親しい人の中には、あなたの様子がおかしいことに気づいているかもしれません。
心の内を吐き出し、鬱になりかけていることを自覚し、早期に適切な治療を受けることが大切です
鬱の危険を感じたら適切な対処をするべき
炎上プロジェクトの恐ろしいところは、自分の時間を持つことが極めて困難であるということです。
日々の激務の中、少しでも時間があれば休息をとることを優先してしまうため、病院へ行く時間を確保することは困難です。その間にも精神は蝕まれていき、気付いた時には完全に鬱状態ということになりかねません。
上で書いたような鬱の兆候に気づいた時点で、心療内科にかかるなど適切な対処をすることで、リカバリーが難しくなるほどの鬱は回避することが可能です。
ちなみに、個人的に心療内科にかかった際は、チェックリストで詳細に鬱状況をチェックされましたね。ギリ、セーフでしたがw
そんなこと言っても、病院に行く時間すらまともに与えられない人間はどうすればと思う方もいらっしゃるかもしれません。
そういう時には、ぜひ会社の産業医の面談を希望してください。
某有名企業の新卒社員の過労死が世で騒がれてから、産業医のドクターストップによる現状回避はとても有効な手段になっています。
上司がまともに取り合ってくれないような現場に身を置いているのであれば、この制度を活用し、炎上プロジェクトから脱出しましょう。
社内にホットラインが設置されているはずなので、自ら面談の依頼を飛ばし、面談を設定しましょう。
休職や退職なんてしたら、生活がままならないのではと不安に感じる方も多いでしょう。
しかし休職中や退職後は、傷病手当金や失業手当の受給が出来るので、額面給与の3分の2を受け取ることが可能です(最長18か月)。
傷病手当を受けるためには医師の診断書が必要になるため、自分のためにも適切に受診、治療を受けることをおすすめします。
鬱の症状が軽いうちにこれらの対処が出来れば、回復も短期間で可能です。
そうすれば炎上プロジェクトから外れた場所で復職する、再就職活動をして新天地で仕事を再開することは十分可能になります。
鬱になったら暮らしていけなくなることは計算上明らか
言うまでもなく鬱になったら収入は減ります。
中程度の鬱になった場合、6カ月程度は自宅療養が必要となります。
この場合、休職として給与が出る場合もありますが、給与が全く出ない会社も一定数存在します。特に産業医を雇うことすらできない中小企業は休業中の給与を全く出さないということがあります。
その場合、社会保険の傷病手当金を申請することができます。しかし、こちらは給与の3分の2程度しか貰えません。
近年ではITエンジニアの給与も上がってきていますが、日本のエンジニアはそこまでの年収をもらうケースはあまり多くないというのが実際のところです。
それどころかSESで客先常駐をしているSEやPGは、極めて低い賃金でこき使われているという現実があります。
著者はSES企業で中途採用の面接官をしていた経験もありますがその時に愕然とした記憶があります。
業界経験10年のエンジニアが平気で年収300万円台で働かされているのですから。
このようなエンジニアが鬱になり、休職、傷病手当をもらうとった場合に収入はどうなるでしょうか。計算してみたいと思います。
仮に年収が年収330万円(月収27.5万円)だったとすると、傷病手当金は220万円(月収18.3万円)と計算できます。
東京都の場合、一人暮らしであれば月の生活費は14万円程度ですから、月収18.3万円でなんとかなるように思えます。
しかし、傷病手当金であっても厚生年金など社会保険料は免除されませんから(所得税は免除される)、給与の約65%しか手取りとして貰えません。
つまり、手取りは11.9万円です。これでは、貯金を食いつぶさないと生きていけないことになります。
また、仮に年収600万円(月収50万円)・家族4人というケースでも、月38万円の生活費がかかりますので、赤字となることに変わりありません。
このように、経済面からみると鬱になるということは極めてデメリットが大きいということになります。
できれば鬱にならないようにすることが良いとしか言いようがありません。
まとめ
まとめです。
- 鬱になりやすいのは、周囲を気にする生真面目な「メランコリー親和型」
- 新型うつになりやすいのは、自己愛が強めの「ディスミチア親和型」
- 炎上プロジェクトはどちらのタイプも鬱を発症しやすい環境である
- 炎上プロジェクトで鬱にならないためには、自ら行動をする必要がある
- 鬱の兆候は早めに察知し、回避することが重要
- 産業医によるドクターストップは有効手段
自分は大丈夫、鬱とは無縁だと思っていても、実際はいつ患ってもおかしくない病気です。
炎上プロジェクトは普通の環境ではなく、必然的に鬱発症のリスクも上がる危険な環境です。
また、鬱は一度患うと再発の可能性が高い病気でもあります。
早めに対処することで症状を軽く抑えることが出来るだけでなく、また再発してしまうかもしれないとおびえながら仕事をしなくて済みます。
自分自身のキャリアのためにも、自分自身の体や心を守るためにも、無理をしすぎず、自ら行動を起こして状況を変えていきましょう。
もしその変化を起こすことが困難な環境であれば、逃げるということは重要な選択肢であると認識しておいてください。
何をするにも、心身ともに健康で生きていることが何よりも大切なのです。