この記事は、客先常駐生活10年間を通して様々な辛酸をなめたSEが
- IT業界に入りたいけど、ブラックな働き方はしたくない方
- SES会社って何?入って大丈夫なの?と不安に思っている方
- 客先常駐をしているけど、働き方に疑問を思っている方
に向けてソフトウェア開発・運用保守の現場で当たり前のように行われている客先常駐を詳しく解説する記事です。
散々苦労をした私も今では、客先常駐SE時代の倍以上の収入を手にすることが出来ています。
そんな体験を元に、現エンジニア、これからエンジニアになろうとしている皆さんが
- エンジニアとしての正しいキャリアパスを考えることができる
- 年収UPの道が明確になる
- 転職をするべきか、我慢すべきかが明確になる
ように記事をまとめてみましたので、是非参考にして下さいね。
Contents
客先常駐とは何か
最初に客先常駐とは何かをおさらいしたいと思います。既に客先常駐をしている方は読み飛ばして結構です。
客先常駐の仕事内容
仕事の内容は、いわゆる情報システム開発です。すなわち、
- 要件定義
- 外部設計
- 内部設計
- プログラミング
- 単体テスト
- 結合テスト
- システムテスト
- 運用テスト
- リリース
- 運用・保守(運用監視)
ですが、これらの工程の一部また全てを「プロジェクトルーム」や「クライアントの社内」にてフルタイムで行うこと、これが客先常駐です。
ただし、一般的な業務系システムでは、上記の1~9の「開発フェーズ」と10の「運用・保守フェーズ」ははっきり峻別されるケースが多くみられます。
客先常駐でも開発フェーズと運用・保守フェーズでは、働き方が大きく変わってきます。
前者は設計・プログラミング・テストが主ですが、後者は運用監視が主になると言っても過言ではありません。
客先常駐にはSESと派遣がある
一口に客先常駐といっても、
- SES(System Engineering Service)契約(準委任契約)や請負契約に基づく客先常駐
- 派遣契約に基づく客先常駐
があります。
①はSES会社が行うサービスで、②は派遣会社が行うサービスです。
エンジニアにとっての大きな違いは概ね以下の2点です。
- 会社と雇用契約を結んだ状態で常駐先のクライアントを探すのがSES、常駐先が決まったら派遣会社と一定期間の雇用契約を結ぶのが派遣という点
- 自社から指揮命令を受けるのがSES、クライアントから指揮命令を受けるのが派遣という点
です。
従って、派遣の場合は常駐前提で、客先もある程度選ぶことができる一方で、SES会社と知らずにソフトウェア・ベンダーに入社してしまうと、いつの間にか常駐先が勝手に選ばれて常駐させられていた、ということが起こり得ます。
また、SES会社では右も左も分からない新卒社員を客先常駐させて放置することもあり、それ自体も問題ですが、クライアントが指揮命令するという違法なケースも決して珍しいものではありません。
なぜ客先常駐という働き方が生まれるのか
①SIerのエンジニア調整弁という要因
客先常駐が生まれる原因を紐解いていくと、その背景には大手SIer(システムインテグレーター)の存在があることが分かります。
SIerは、例えば今回のコロナ・ウィルス騒動やリーマンショック、東日本大震災など、IT投資が落ち込むリスクに備えて、毎月固定的に給料を支払わなくてはいけない自社エンジニアの数を増やさないようにしています。
そのため、好景気でIT投資が増える時期となると、特に大規模プロジェクトではエンジニア不足となります。コロナ・ウィルス以前の日本が正にそうでした。
そこで、関係会社・協力会社たるITベンダー(SES会社)にエンジニアの供給を依頼することになります。
SES会社は、SIerの代わりに自社でエンジニアを抱えていますから、喜んで客先常駐させます。
このように、SES会社がSIerのエンジニア調整弁となっていることが、客先常駐が生まれる最も大きな理由です。
②技術不足の情報システム部門という要因
次に多いのが、事業会社のIT部門、情報システム部(情シス)に客先常駐するパターンでしょう。
事業会社は、Saasなどのサービスに移行せず、未だに自社で情報システムを抱えているケースが少なくありません。
そして、情シスがその情報システムを運用・保守、メンテし続けているのです。
しかし、そのような状況にも関わらず、情シスではプログラミングできる人材が限られています。
そのため、ITベンダーのエンジニアに常駐してもらい作業をしてもらいます。
この客先常駐のケースは、COBOLで作られたレガシー資産の運用・保守であるケースもあり、楽ではありますが、エンジニアの墓場として語られることも多いです。
このような背景に加えて、客先常駐させるのは以下のような合理的な理由があります。
③開発の効率性・合理性という要因
建築現場をイメージすると分かりやすいかもしれません。多くの人が関わって一定の納期で顧客の資産を作り上げるため、以下のように合理的に作業を進めないといけないのです。
チームプレイのため
開発プロジェクトでは、クライアントも一体となって、要件定義、設計、開発、テストを進めていくことが理想的であると言われています。
そのため、同じ現場に両者が居合わせなくてはなりません。
また、コーディングやテストなど下流工程に進んでいる場合でも、上流エンジニアと下流エンジニアが同じ現場にいる方が話が進みやすくなります。
このような合理的な理由があるため、客先常駐が行われます。
情報セキュリティのため
情報セキュリティも理由の一つです。
開発しているシステムの内容は、機密情報です。特に上場企業の場合、情報漏洩が株価などに影響することは明らかでしょう。
このような機密情報を、リモートでやり取りするということは、インターネット上に情報を晒すということですから、大きなリスクがあります。
従って、プロジェクトルームでは、
- SIerが開発用のPCを用意する
- 勿論、PCは持ち帰り厳禁
- PCを机に鎖で固定する
- USBメモリは使用禁止
- インターネットは遮断
などの対策が取られることになります。
このため、常駐でしか仕事ができない状態が生まれます。
客先常駐でも社員とフリーランスでは大きな違いがある
ITベンダー(SES会社)の社員とフリーランス(個人事業主)ではその立場の違いから、客先常駐のメリット・デメリットが異なります。
フリーランスの場合は、リモート案件も無い訳ではありませんが、案件の数自体が少なく、また単価も安くなってしまいます。結果、客先常駐がメインの選択肢になります。
とはいえ、会社員のエンジニアと比べてフリーランスが貰える金額はずっと多くなります。その点だけでも、フリーランスが客先常駐するメリットがあるのです。
以下の表を見て下さい。フリーランスと正社員とでは年収に大きな差が出ることが分かります。
- 20代 696万円 (正社員平均年収の1.84倍)
- 30代前半 780万円 (正社員平均年収の1.64倍)
- 30代後半 816万円 (正社員平均年収の1.42倍)
- 40代前半 840万円 (正社員平均年収の1.32倍)
- 40代後半 876万円 (正社員平均年収の1.31倍)
- 50代前半 660万円 (正社員平均年収の0.96倍)
- 50代後半 600万円 (正社員平均年収の0.88倍)
(出典:IT系フリーランスエージェント)
また、フリーランスの場合、自分のキャリアパスや志向によってある程度プロジェクトを選別することができます。
一方、SES会社の社員の場合、投入されるプロジェクトは自分で選べないことが多いため、最悪な現場に入ってしまうことも多々あるのです。
「客先常駐あるある」な問題点
それでは、客先常駐の問題点を挙げていきましょう。
給料が少ない!これじゃ暮らしていけないよ
客先常駐エンジニアの給料は一般的なITエンジニアに比べて低いと言われています。勿論、会社にもよりますが、概ね以下のような額です。
- 新卒~1年目 年収300万円程度
- 2年目~3年目 年収330万円~350万円
- 3年目~7年目 年収350万円~400万円程度
- 8年目以降 年収400万円~480万円程度
給与が少なくなる理由は主に2つあります。
多重請負のため利益が抜かれていく
一つ目はIT業界の構造的な問題点です。
IT業界では、SIerを頂点とした多重請負構造になるケースが殆どです。
SIerがエンジニア不足なので下請け会社に仕事を流し、更にその会社もエンジニアの数を絞っているため、更に別の下請け会社に流し・・・という連鎖が起きます。
この連鎖を「商流」といいますが、連鎖が深くなる度に、各社が中間マージンを取ることから、下流の下請けになればなるほど、受注金額が少なくなります。
また、SIerと直接取引の無い会社は、口座が無いという状態と言われ、他社から口座を借りるということが行われます。この際も、当然手数料は取られます。
そして、最下層に位置するITベンダーの社員は、更に会社の利益や経費を差っ引かれて、残りカスみたいな金額を受け取ることになります。
エンジニアが待機になると売上がゼロとなるため
もう一つの理由は、SIerがエンジニアを増やさない理由と似ています。
SES会社では、プロジェクトとプロジェクトの間に空白期間が生じることがあります。これがエンジニアにとって待機と呼ばれるものです。
常に納期に追われるエンジニアにとってはつかの間の休息ですし、ほっとしたいという気持ちもあるでしょう。
しかし、この期間はSES会社にとって売上ゼロにも関わらず、エンジニアに対しては給与を払い続けなくてはいけないという魔の期間です。
このため、給与を低く抑えておき、会社へのダメージを最低限にしようとするのです。
昇進できない!人事評価で正当に評価されない
上記の給与が上がらないということと密接に関連していますが、SES会社では人事評価が正当に行われません。
人事評価では、「公平性」「客観性」「透明性」3つの原則を満たし、従業員の納得度を高めることが必要とされていますが、SES会社では機能していません。
その理由は以下の通りです。
- 上司に人事考課スキルがない
- 上司が現場にいない
- そのため、評価の対象は能力よりも「毎月幾ら稼いでいるか?」という業績評価になりがち
まず、SES会社では滅多に従業員教育をしませんから、エンジニアが人事評価を行う立場に昇進したとしても、どうやって評価したらよいのかまるで分からないという状況になりがちです。
また、人事評価を行うべき立場の人間が、一エンジニアとしてプロジェクトに投入されていますから、部下の日頃の仕事ぶりなどまるで見ないまま評価を下すことになります。
そうすると、本来エンジニアはその能力で判断すべきところ、毎月幾ら稼いでいるのかという「単価」での業績評価が主になってしまいます。仮に、評価項目が「業績評価」と「能力評価」に分かれていても、「業績評価≒能力評価」となってしまうのです。
このような体たらくの一方で、待機を防ごうとエンジニアの希望を無視した手っ取り早い現場選定が行われます。
結果、当エンジニアの業績が落ちる→評価が下がる→給料が上がらないという負の連鎖が生まれます。
現場が選べない!何でテストばかりなの!?
稼働率が重要視されるから
その理由は、会社として社内待機の期間を作りなくないからです。
繰り返しになりますが、社内待機をさせた分、売上はゼロですが、給料は払い続けなくてはいけません。
そのため、「何としても早く」「何としても高い単価で」エンジニアを現場に投入しようとします。結果として、エンジニアの意向を無視した現場の選定が行われてしまいます。
新卒エンジニアのようにスキルがやや低いエンジニアの場合、とりあえずテストの現場に投入するということも平気で行われます。
このように、SES会社では稼働率(いかに待機の時間を少なくするのか)と月単価を何よりも重視されています。
この点では、派遣の方がややベターな働き方と言えます。何故ならば、派遣の場合は、派遣先が決まった後に、派遣会社との雇用契約が成立するため、エンジニアが現場を選べるからです。
一方で、エンジニアにとっては給与がゼロになるリスクを負うことになりますから、悩ましいところです。
下請けだから
客先常駐エンジニア≒下請けエンジニアですから、基本的にマンパワーが必要な下流工程に投入されることが多くなります。
特に3次請け、4次請けともなると、コーディング、テストばかりということも珍しくありません。
自分のキャリアパスやスキルアップを考えてPMの仕事や要件定義の仕事をしたいと思うエンジニアは多いのですが、3次請け、4次請けという下流の下請けSES会社にいる限り、構造的に難しいのが現実です。
社内待機や自宅待機がある
「社内待機」というのは、次のプロジェクトが始まるまでの間、会社に出勤し、職務経歴書のアップデートしたり、雑務をしたりすることを指します。
クライアントが求めるスキルにマッチしない場合、なかなか次のプロジェクトが決まらず、社内待機が長引きます。
そうすると、SES会社では「あいつ、使えないな」と周りの目が厳しくなります。本来は開発を離れてゆっくりしてもバチは当たらないはずなのですが、SES会社では許されません。そんな状況に置かれたら、誰しも心が折れてくるものです。
そして、一定の条件で「自宅待機」もあり得ます。
「自宅待機」というのは、うつ病などで休職せざるを得ない場合を除き、基本的には経営が悪化したときに社員を解雇をするのではなく「休業させる」ことを指しています。
ですから、基本的に自宅待機が頻繁に起きるものではありません。近年では、東日本大震災の時に行われたのが記憶に新しいです。
よくネット上では、自宅待機で給料が〇%カット!とセンセーショナルに言われますが、これは経営難で社員を休業させた場合に給与を6割以上払わないと雇用調整助成金という助成金が国から貰えないということからきていると考えられます。
帰社日が面倒!無駄!
客先常駐エンジニアは毎日客先に通勤することから、帰属意識がなくなりがちです。
人によっては、新卒の時から永遠と社外で過ごしている訳ですし、まともに教育すら受けさせて貰えないことから、自分の会社がどこだか分からなくなるのも当然です。
そこで、SES会社では「帰社日」という制度を作って、社員を集める場を作ろうとします。
しかし、会社によっては18:00から開始にすることもあり、毎日残業続きのエンジニアにとっては「どうせなら定時に上がらせてくれ!」と言いたくなりますし、納期に追われていいる中で迷惑この上ありません。
多くの客先常駐エンジニアは、帰社日は無理!無駄!と思っています。
会社としては、なんとかエンジニアの心をつなぎとめておきたいのでしょうが、むしろ、帰属意識を更に薄めてしまうのではないかと思わないでもありません。
また通勤先が変わるの?
ようやく慣れたと思ったのに、次は別の現場に・・・ということはよく起こります。一つのプロジェクトの中でもそのような移動は起こり得ます。
最悪なケースは、常駐先の情シスが会社都合で移転することです。
東京から山陰へ移転というケースを私は見たことがあります。勿論、客先常駐エンジニアも一緒についていかなくてはなりません。
マイホームを買ったばかり、結婚したばかり、子供が生まれたばかり、という状況でこのような異動が起こると、正に地獄と言って良い状況に置かれます。
通勤時間が長すぎる!
東京近郊で働く場合、SIer関連プロジェクトの常駐先は東京でも品川周辺や神奈川県が多いようです。
実際私が常駐した先も殆どがこのエリアでした。
従って、埼玉方面に住んでいるエンジニアにとっては、非常に辛い電車通勤が待っています。
毎日終電帰りでも、朝の7時の電車に乗らなくてはならない・・・というようなことも平気で起こり得ます。
更に、昨今のコロナ騒動です。満員電車は避けたいところですが、残念ながら不可避です。
ストレスがたまる・・・
罵倒やモラハラを受ける
常駐先でうつ病や精神病を患うエンジニアは後を絶ちません。
私の知る限りでは、クライアントからの過度のプレッシャーやモラルハラスメントで精神を病むケースが多かったように思います。
具体的は、IT部門の人や元請けのSIerのエンジニアから
- 大声で罵倒される
- ねちねちと嫌味を言われ続ける
ということは頻繁に起きていました。
特に炎上している開発プロジェクトでは、このようなことが毎日起きます。
本来なら反発したいところですが、エンジニアとしても納期に遅れていたり、バグが出たりしていると、「自分のせいだ」とか「自分が悪いのだ」と思ってしまい、毎日の残業と徹夜で心をすり減らしながら、なんとか納品しようと頑張るしかない状況に置かれてしまうのです。
恐ろしいのは、20代の若手エンジニアだけでなく、30代、40代のベテランエンジニアにも起こりうるということです。実際に私も、何人もの先輩が精神を病んで数カ月の間休職するということを見てきました。
一人で寂しい
上記のような犯罪すれすれのケースではないにせよ、一人で寂しく情報システム部門に常駐するということはよくあります。
誰も知っている人がいない中、ポツンと一人でどうやって仕事をしたらよいのか?お昼ごはんはどうしたらよいのか?と考えながら過ごさなくてはいけなくなります。
ひどいケースになると、自分の名前ではなく「会社名+さん」で呼ばれることがあり、益々孤立を深めることになります。
客先で気を使わなくてはならない
お客さんの中に置かれる訳ですから、気疲れするということはよく起こります。
一緒にお昼ごはんに行くこともあるでしょうから、朝から夜まで気が抜けない状況に置かれることが多くなります。コミュ障のエンジニアにとっては地獄のような状況です。
そのような状況のなかで、バグやミスを起こさないように細心の注意を払って仕事をしないといけない訳ですから、ストレスが溜まるのも当然なのです。
法律違反だらけの働き方を強要される
客先常駐エンジニアとして働くことで知らず知らずのうちに法律違反に加担させられていることがあります。
主要なケースとしては以下の2点です。
二重派遣
これは、派遣契約(労働者派遣法)に基づき派遣社員として客先常駐する場合に起こり得ます。
A社という派遣会社から、B社という派遣先に派遣されたのにも関わらず、C社に派遣されているといった場合は、派遣社員を更に派遣していますから二重派遣となり、立派な法律違反となります。
B社はもちろん、C社まで処罰されることになります。派遣されたエンジニアが処罰されることはないようですが、経営者や人事担当者が処罰されることもあるようです。
偽装請負
これはSES契約(準委任契約)や請負契約で客先常駐する際に起こり得ます。
本来、SES契約では、クライアントに指揮命令権がありません。エンジニアに指揮命令できるのは、SES会社だけです。
しかし、現実的には現場で元請け会社が下請け会社のエンジニアに指示していることが多々あります。
また、当たり前のように行われている「職務経歴書の提出」や「客先面談」も法律違反です。準委任契約や請負契約では、客先常駐するエンジニアを選定するのはSES会社の役割とされているからです。
客先常駐エンジニアの中には客先面談が苦痛という人が多くいますが、本来違法であることに苦しめられているのです。
再委託
これは、二重派遣のSES版だと思って下さい。
SES契約に基づいて、A社→B社→C社という形で常駐している場合を指します。
ただし、明確には「法律違反」ではなく、「契約違反」です。
上記の例の場合、C社がB社との契約の中で「再委託禁止」を明記している場合、B社が契約違反を犯していることになります。
客先常駐では、別の会社の名刺を持たされることが頻繁にありますが、このような契約違反が背後に隠れている可能性があるのです。
なお、契約の中に再委託禁止が明記されていない場合は特に問題はありません。
フリーランスの場合、準委任契約でエージェントと契約を結ぶことになりますが(エージェントによって異なる)、エージェントとクライアントは再委託前提の契約となっています。
客先常駐エンジニアの将来はどうなる?
以下では客先常駐エンジニアが描く典型的なキャリアパスを紹介します。
一エンジニアとして開発現場を転々とし、最後は・・・
一人で開発現場に飛び込んでいくという生き方です。
小規模なSES会社にいるエンジニアや派遣社員エンジニアはこの生き方になりがちです。
問題となるのは、50代に差し掛かった時に大幅に市場価値が下がることです。これは統計的にも明らかです。
その証拠に同じ一匹狼であるフリーランス・エンジニアも50代ともなると正社員よりも年収が大幅に下がります。
しかし、フリーランスは20~40代に正社員を遥かに凌ぐ年収を享受していたということも事実です。
SES会社のエンジニアや派遣エンジニアの場合、20~40代で給料を低く抑えられたまま50代を迎えてしまい、そのままずるずると市場価値が下がっていきます。結果的に、生涯年収は非常に少なくなってしまいます。
SES会社であれば管理職になるというパスも可能性としては無いこともありません。50代で正社員の年収がフリーランスを上回るのは管理職になれるからです。
しかし、SES会社では管理職のポストが少なく、管理職になれるのはほんの一握りです。更に、入れる現場が少なくなることから待機が増え、むしろクビ候補にすらなってしまいます。
また、派遣社員の場合はより状況は深刻となります。なかなか現場が決まらず、無収入の状態が長く続くようなことが起き得ます。
もし生涯客先常駐エンジニアで生きていくのであれば、ある領域に特化した専門技術を身に着けるか、コンサルなど上流にいくしか生き残っていく術はありません。
果たして現場の選べないSES会社のエンジニアがこのようになれるのかは分かりませんが・・・
PL(プロジェクトリーダー)として部下を引き連れるようになる
エンジニアも5年経てばPLの役割を任せられるようになります。
恐らく、多くの客先常駐エンジニアがこのキャリアパスを辿るものと思われます。
プロジェクトリーダーとは、1~3名の部下を連れたエンジニアを指します。
クライアントとの調整を行いながら、WBSを引き、部下に仕事を割り当てていくことになります。
勿論それだけではなく、自分でも一担当者として仕事をしなくてはなりません。仕事量は非常に多いものとなります。
このように大変な立場であるPLですが、客先常駐エンジニアにとってこの段階が終着点となるケースが多くみられます。
もう一段階先には、システム開発の一部領域を上流から下流までを自ら受注し、多くの部下を動かすということもあり得ますが、特定のSIerと長く付き合い、良好な関係を気付くことが絶対条件となります。
残念ですが現場を転々として、次から次へと異なる会社と仕事をしている状況では、望むべくもありません。
そして、50代を迎える頃になると市場価値が下がり・・・とその後は上記した内容と重複しますので省略します。
PM(プロジェクトマネージャー)となる
PMというのは、プロジェクトの納期や人的資源、クオリティを管理する役割を指します。簡単に言えば、プロジェクトのトップです。
このキャリアパスは客先常駐エンジニアには無いと言っても過言ではありません。
何故ならば、業務系プロジェクトの場合は、元請けの会社のエンジニアがPMの役割を担うからです。
更には、プロジェクトマネジメント専門の会社もあり、相応のノウハウを有しています。
これは業界構造ですから、ただ単に色々な現場を経験して叩き上げると辿り着けるようなものではないのです。
残念ながら下請けエンジニアにとっては遥か彼方のキャリアパスです。
部長などの管理職として開発現場とは一線を引く
これはいわゆる”上がり”のコースで、多くの方がこうなりたいと望んでいると思いますが、ほん一部の人にしか許されていないキャリアパスです。
なぜならば、エンジニア自身ではなく、会社の都合が占める割合が大きいからです。
このような立場になるためには一体何年我慢しなくてはならないのか分からないですし、ポストが残っているか分からないため、なれるのかも不明です。しかも、上司に嫌われたらそれで終わりです。
部長になるために頑張ったけど、気が付いたら40を超え、50を超え・・・最後にはリストラ候補となりかねません。
確率論から言うと、かなりリスキーな方向性と言えます。
営業担当者に転身する
一定年齢を超えたエンジニアが営業担当者に転身するケースは珍しくありません。
やはり、ある程度技術な知識の裏付けのある営業は貴重です。
また、SES会社の営業はそれほどの営業力を求められるものではありません。基本的には既存の顧客に対する御用聞き営業か、待ち営業のスタイルです。更に、人材と仕事のマッチングをするだけですので、提案力もそれほど必要ありません。
ただし、SES会社の場合、営業担当者に人を回せるだけの余裕がない場合もあり、会社の収益状況によってこのキャリアパスに進めない可能性もあります。
また、エンジニアにはコミュニケーションを取ることが苦手な人が多く、営業になりたくてもなれない人はいます。
自宅待機からのクビ
以下のようなケースでは、クビもあり得ます。
- 客先からクレームを受けて自社で待機することになった
- スキルが低すぎて入れる現場がなく、遂に自宅待機となった
待機が長引けば長引くほどエンジニアはただで給料をもらい続けることになりますので、SES会社としては何とか手を打とうとします。
上記でクビと書きましたが、実際にその際に使われる手段は「退職勧奨」です。
あくまでも自主退職を促すということが行われます。簡単に言うと戦力外通告です。「違う道を考えてみてはどうか?それがお互いのためじゃないかな?」というのが常套句です。
「退職勧奨」の合わせ技として使われるのが「自宅待機」です。これは”次の仕事を探すための猶予期間”として使われます。ただし会社の業績がかなり悪化している時でないと発動されないので、そもそも会社が倒産する可能性もあり、辞めた方がいいとも言えます。
いわゆる「解雇」は、労働契約法 第十六条に以下のように定められており、不法行為や反社会的行為、理由のない遅刻・欠勤の繰り返しなどがないと行うことができません。
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
私も見たことがありません。
また、雇用調整助成金をはじめとする、様々な助成金で一定期間の「解雇が無いこと」が要件となっていたり、従業員から解雇無効で訴えられる可能性もあり、普通は無いと思って結構です。
また、「整理解雇」も要件が厳しく、以下のような状況で初めてできるものですから、使われるケースは限定的です。
- 経営危機に陥っている
- 役員報酬の削減をしている
- 新規採用の抑制している
- 希望退職者を募集している等
客先常駐を辞めたい時の対処法とは
常駐先を変えてもらう
まずはゆっくり深呼吸し、客先常駐自体が嫌なのか、それとも今の現場が嫌なのかを考えてみて下さい。たった30秒で結構です。
よくよく考えると、以下のように今の現場に関することではありませんか?
- 勤怠関係(現場が遠い、毎日遅くまで残業がある、休日出勤がある)
- 人間関係(元請けの人から怒られる、同僚が気に食わない等々)
こういった場合は、会社の上司に相談し、常駐先を変えてもらうということが最初の選択肢となります。
一方で、原因が以下のような根本的なことであれば、すぐさま客先常駐を脱出することを考えた方がいいかもしれません。
- 仕事がつまらない
- 将来が不安
- 給料が少ない
転職活動をする
転職という選択肢に間違いがない理由
転職しようと思っても、とりあえず転職サイトに登録するだけして、何となく会社情報を眺めているだけという人も多いようです。
このように本気で転職に踏み切れない人の理由の多くは、
- 新たに人間関係を築かなくてはいけないのが大変だ
- 今の上司や同僚を裏切ることになるのが嫌だ
- 一応会社に愛着がある
- 仕事でも楽しいことはあった
という人間関係や会社愛であることが多いようです。
しかし、よくよく考えてみると、自分が行動しないことへの言い訳としてこのようなことを言っている場合も多いようです。
心ではこのままではいけないと分かっていても、なかなか実行に移せないということですね。
確かに私もなかなか実行に移せませんでしたが、実際転職してみると、
意外に転職した方が楽しいし、転職して良かったと思えます。
今の会社や周りの環境を変えようとするよりも、思い切って別の環境に行ってしまった方が楽だからです。
今のままでは登れないハシゴがある
上記しましたが、客先常駐エンジニアがPMやコンサル、上流エンジニアになるのは業界構造として非常に難しいのが現実です。
幾ら頑張って勉強しても、ハシゴが無ければ登ることもできません。
もしPMやコンサル、上流エンジニアになりたいのであれば、はじめからそういったパスのある会社に入るしかありません。
会社は変わらない
SES会社の中には、SES事業から脱却しようと新しいサービスやアプリを開発している会社もあります。
しかし、そういったサービスやアプリを開発するのはお金も時間もかかります。何年たっても完成しないということもありますし、仮に完成したとしても市場のニーズを外している可能性もあり、収益化できない可能性もあります。
私が以前いた会社もクラウド型サービスを開発していましたが、その会社から離れて10年後にHPを覗いてみると、導入件数はたった5件にとどまっていました。
結局SES会社はSES会社のままだなと少々悲しくなりました。
エンジニアの転職は年齢が若いほど有利
これはIT業界の特性だと思いますが、エンジニアは若いほうが圧倒的に転職しやすい現実があります。
それは何故か?転職難易度とその理由をまとめてみました。
年齢 | 転職難易度 | 難易度の理由 | 転職の展望 |
20代前半 | ◎ | エンジニアとしては戦力と言えないが、第二新卒(大学を卒業してから1年未満〜3年)と言われる時期で、最低限度のマナーや知識を身に着けている | 人手不足から企業が積極採用。異業種転職も含めて良い企業を狙える |
20代後半 | ◎ | エンジニアとしては1人前になる時期で市場価値が高まる | 異業種転職も含めてチャンスはふんだんにある。大きくキャリアアップが可能 |
30代前半 | 〇 | エンジニアとしては即戦力。市場価値も高いが、これまで積み上げてきたキャリアに左右される | 同業他社であれば需要多し。コンサルなど上流工程に行く最後のチャンス |
30代後半 | △ | エンジニアとしては即戦力だが、マネジメント経験がないとつらい。これまでのキャリアに大きく左右される | 同業他社であれば需要は十分にあるが、ステップアップは難しい。フリーランスも選択肢になる |
40代 | △ | エンジニアであっても管理職としての肩書やマネジメント経験がないとつらい。これまでのキャリア次第 | 需要もないことはないが、高望みはできない。フリーランスが有力な選択肢になる |
50代 | × | コンサルや上流工程の仕事が中心になっていないとつらい。管理職としての肩書やマネジメント経験はほぼ必須 | 希望通りにはいかない。フリーランスも選択肢になるが、年収は下がる可能性大 |
このように年齢によって転職難易度が大きく変わってくる状況で、転職を迷って1年、2年と過ごしていると自分を高く売るタイミングを逃してしまう可能性があります。
特にキャリアアップを目指している方は、年齢が上がると飛躍的に難易度が高まってしまいますので、早め早めの思い切った行動が必要です。「思い立ったが吉日」です。
フリーランスエンジニアとなる
独立して個人事業主になってしまうことも一つの選択肢です。
つまりフリーランス・エンジニアになるということですが、これにはメリット・デメリット両方ありますので、ご自身にとっての是々非々で決めて下さい。
メリット
- 20代~40代の年収は(平均的に)正社員を大幅に上回る
- 会社の煩わしい人間関係から解放される(ただし、現場の人間関係には縛られる)
- 副業も可能
- 仕事を(ある程度)選ぶことができる
- 案件の間に休むことができる
デメリット
- 50代以降になると年収は正社員を下回る可能性あり
- 常駐案件がメインとなる(リモートは無いこともないが、少ない)
- 仕事が不安定になる(切られやすく、次の案件がなかなか決まらないことがある)
- 厚生年金ではなく国民年金なので老後に不安が残る
- 確定申告が必要になる
- 福利厚生がない(エージェントによっては代替の制度がある)
- 身分が不安定で、ローンが通らなくなる
- 管理職の肩書が得られない
メリット・デメリットをまとめると
まとめると、20~40代の年収は高くなる可能性があるが、年齢が上がるにつれてリスクは高まり、老後はやや不安ということでしょうか。
もしフリーランスになりたいのであれば、(将来のことなんて誰も分かりませんので)生涯年収までシミュレーションする必要はないと思いますが、個人型確定拠出年金「iDeCo」などで老後に備えることが必須となるでしょう。
会社の辞め方
普通に自社に「退職届」を出しましょう。
その際は、○○日までに辞めたいということを明記してください。最短で辞められる日は、民法627条1項上は2週間程度ですが、就業規則に書かれている場合はそれに従います。
なお、細かいことを言えば、「退職願」では駄目です。ただ”辞めさせて下さいお願いします”と言うだけなので、効力は弱くなります。
辞められるタイミング
SES契約(準委任契約)では、誰が常駐するのかを決めるのはあくまで自社側ですので、本来は自社と辞めるタイミングを決めれば問題ありません。
上記の通り就業規則にもよりますが、基本的には「退職届」を提出した2週間後が一つの目安です。
SESの場合、仮にプロジェクトが途中であっても、自社が代わりのエンジニアを用意すれば良いため、辞めても問題ありません。自社の上司に「訴えるぞ」と脅されれても、訴えられることはありません。
自社開発の会社で従業員が訴えられた判例がありますが、会社側の主張は退けられていますし、SES会社が訴えた事例は無いと言っても過言ではないでしょう。
なお、無断欠勤の場合は、会社から訴えられた事例がありますので止めておいたほうが良いです。客先常駐から逃げられるというだけで気分が良いのですから、バックレは止めましょう。
転職で客先常駐から脱出し、年収UPまで実現させたエンジニアに話を聞きました
また、他の現場の同期は上流工程から仕事を任せれていたり、プロジェクトをコントロールする立場になっていたりと、上司や職場によって待遇が異なっていました。
そこで、「この場所を飛び出さなくては」と思ったことも転職を後押ししました。何度も転職活動中に悩みましたが、最終的に後押ししたのは自己評価額です。転職エージェントの方が私のスキルや経歴を鑑みて、評価額(自分がどのくらいの価値があるのか)を算出してくれましたが、当時自分が思っていたよりも、もちろん当時支給されていた金額よりも多い金額を提示されたので迷いがなくなりました。
エージェントにこういう会社がいいと伝えた中から提案された会社だったので、それに違わずワークライフバランスのとりやすい現場です。
作業に関しても、こういうことがやってみたいと発言しやすい雰囲気で、かつその意見が通りやすい現場です。
私の場合は転職して好転したことばかりなので、転職に踏み切ってよかったなあと思っています。