この記事では、
- 一人で常駐先に放置されている
- 先輩に面倒を見てもらえない
- 社内待機で放置されている
というエンジニアに向けて、放置される理由とリスクについて説明したいと思います。
かく言う私も客先常駐エンジニアを10年ほど続けていましたが、放置された経験は1度や2度ではありません。そこで、どうやってメンタルを維持したかについても書きたいと思います。
是非参考にしていただければと思います。
客先常駐エンジニアが放置されるケースや理由
足手まといとみなされる
経験の浅いエンジニアが先輩と一緒に常駐すると放置される、という事態は頻繁に起こります。
その理由としては、
- 会社は新人教育(OJT)のつもりだが、先輩には教育の意識がない
- 先輩が自分の作業に手一杯になり余裕がない
- 先輩の指示の出し方が下手
が主に挙げられるでしょう。
つまり、
- 「コイツに仕事を任せて後でチェックするより、自分で全部やったほうが早えよ!」
- 「クソ忙しいのに新人教育まで押し付けられた!」
というのが先輩の本音なのですね。
いわば自分も会社の被害者だと思っているということなのです。
しかし、問題の大部分は先輩のマネジメント能力不足です。
プログラムやテストは細かい単位に分けることが可能です。
仮に、先輩の限界仕事量が100で、後輩の仕事量が20だとしても、後輩への仕事の投げ方(仕事の難易度とスキルを見極める)とモチベーションの持たせ方を工夫すれば、150にすることもできないことはありません。
後輩の立場としては自分以上に先輩の成長にしてもらいたいところです。
ずさんなプロジェクトマネジメント
常駐先プロジェクトの予算やスケジュール管理が滅茶苦茶の場合、「何したらいいの?」という状態で一定期間放置されるということも珍しくありません。
私が見たことがあるのは、絶賛大炎上しているプロジェクトに途中投入され、何の指示も降りてこないまま何日も放置を食らったケースです。
このように、既に予算やスケジュール管理が破綻している状態では皆が皆バタバタしており、マネジメントが破綻していますので、途中投入された人にしわ寄せがいくことになります。
問題はエンジニアを送り出すベンダー側にもあります。
SIer業界は人月商売ですから、人を現場に送り込めば込むだけ儲かります。
ですから、明らかに炎上していることが分かっている案件でも、ベンダー側はホイホイとエンジニアを送りこんでしまいます。
結果的にエンジニアは放置された後、地獄の終電帰り、休日出勤というジェットコースターのような働き方を強要されてしまうのです。
運用保守・運用監視で蚊帳の外
運用保守・運用監視の現場は開発とはやや実態が異なりますが、放置が生まれやすい現場でもあります。
これも、人月稼ぎのために追加投入されたエンジニアが放置されるケースが多いですね。
運用保守・運用監視の場合、開発とは違ってひがな監視コンソールを眺めたり、バッチの動作検証が主となります。ですから、システムが安定稼働をし始めると、大部分が定型化する業務です。
別のメンバーが追加投入されても、振れる仕事があまり多くないのですね。
そもそも、投入されたばかりの人に安定稼働しているシステムを触らせるなど怖くてできません。
また、運用保守・運用監視の場合、インシデント対応が発生しますが、システムをよく知っているメンバーでしか対処できません。
顧客が怒鳴り散らす中、既存メンバーは真っ青になって対応に手一杯になってしまい、途中投入されたエンジニアに構うどころではなくなります。
途中投入されたエンジニアは放置され、オロオロするだけになってしまうのですね。
SES契約の問題
そもそもSES契約(準委任契約)自体が放置の大きな原因となっています。
SES契約では、エンジニアを客先常駐させますが、エンジニアを指揮命令・管理するのはあくまでもSES会社です。
クライアントはそもそも指揮命令・管理ができないのですね。本来はエンジニアの選択すらできません(実際は面談をしてますが・・・)。
ですから、SES契約で常駐しているエンジニアが放置されて暇そうな顔をしていても、クライアントは基本的に手助けすることはできません。親切に教えてあげたくても基本的に無理なのですね。
そうです。実際は指揮命令や管理が行われます。そうでないとプロジェクトが回りませんから。
しかし、また別の理由でも放置は行われるのです。
クライアントが「契約が切れれば別の現場に行ってしまう外注をわざわざ教育してやる必要はない」「だめならチェンジしてもらえばよい」と思っている場合ですね。
実際のところ、エンジニアにスキルがある前提で発注しているのですから、無理もありません。
派遣の場合は派遣先や営業担当の問題
これが派遣となるとまた話が違います。
派遣の場合は「派遣契約」を結びますので、派遣先に指揮命令権があります。ですから、派遣先で放置されてしまうのは派遣先のマネジメントに問題があるからです(理由は上記したように、プロジェクトマネジメントの問題だったり、担当者のマネジメント能力不足だったりします)。
また、派遣よくみられる不満は、派遣会社に放置されているように感じるというケースです。
契約の時は「困ったときはいつでも連絡してくださいね!」と言っていた担当営業が、
- メールを送っても返信してくれない
- 派遣先に来てくれない
- いきなり辞めてしまった
ということで放置が起きるケースですね。
これは、フォローを望む(愚痴を聞いて欲しい)エンジニアと、売上を追わなくてはいけない営業担当との間に意識のギャップがあることから起こります。
担当営業からすれば、新規の派遣社員採用、契約満了前の打診などが忙しく、既存の派遣社員に多くの時間を割くことができないということなのですね。
単純に能力不足の人もいますが・・・。
社内ニート
これは、客先常駐エンジニアが契約満了となり、社内待機状態になった時に起きます。
新たな案件にアサインされるまでは、一人で寂しく自己学習というケースですね。
本来は、ステップアップ期間として会社側が何かしらのバックアップをすべきでしょうが、残念ながら特にSES会社ではそのような手厚い制度を設けているところは皆無です。
そして、一人で自己学習と言うのは、目標が持ちづらく、飽きっぽい人であれば3日もするとうんざりしてしまうでしょう。
更に辛いのは、あいつは仕事がないんだという周りからの目です。いくら本人のメンタルが強くても、これに耐えられる人は少数です。
私も、後輩に「めっちゃヒマそうでしたね」と言われて危うく殴りそうになった経験があります。
放置はエンジニアとしてリスクがある
成長できない
仕事がない状態で放置される、という状況は非常に辛いものです。
恰好の休憩時間と思ってネットサーフィンにふける、心を閉ざして自己学習にふけるなどして自分の心を守ることもできますが、これではエンジニアとして成長ができません。
エンジニアが最も成長するのは厳しい納期や品質基準などのプレッシャーの中で仕事をすることです。目標も時間的制限もない自己学習による成長は非常に遅いものです。
私の個人的な経験では、例えば業務系のDB設計、プログラミングのイディオムやデザインパターン的な部分は、修羅場をくぐった経験がものを言いますね。
また、放置されているだけで仕事はあるという状況下でも、成長を阻む要因があります。
それはいわゆるメンターとなる人がいないと言うことです。
体系的な知識や経験がないまま、難しい設計やプログラミングに取り組もうとすると、ググっているだけであっという間に一日が過ぎ去ってしまいます。
こういった時に一言のアドバイスで気付きを与えてくれる人がいるといないのとでは全く状況は変わります。
特に設計の場面では、「~すれば~になるだろう」という仮説で成果物を作り上げますので、経験や知識をもとに「これは後々大変になるよ」「こうしたら良いんじゃないかな?」と軌道修正をしてくれる人がいるといないのとでは大違いです。
放置されていてはこのような気づきの積み上げできませんし、成長にもつながりません。
モチベーションが下がる
放置されて1週間、2週間も続いてくるとモチベーションが際限なく落ちていきます。
「組織アイデンティティは自我アイデンティティを高めるか ーモチベーション誘因の体系化を通した検証ー(豊田義博 リクルートワークス研究所・主任研究員)」によると、モチベーションに関係する誘因は以下の3つです。
モチベーション要因 | 説明 |
組織アイデンティティ | 「会社への愛着」とか「会社への所属意識」など、会社に対する意識 |
仕事自体の楽しみ | 「会社に行くことの楽しさ興味」、「志向にあった仕事」など |
仕事での成長実感 | 「能力やスキルの活用」、「仕事を通じての成長」、「社外でも通用する能力スキル」、「仕事の自律性」など |
このようにみると、客先常駐をしている時点で所属意識なぞ持ちようがありませんから、組織アイデンティティが下がる→モチベーションが下がるという構造があるのですね。
また、上記しましたが「仕事での成長実感」がなければ、モチベーションは下がってしまうということも分かります。
つまり、客先常駐で放置されていては、モチベーションが上がらなくて当然なのですね。
シンプルに不幸になる
「共同体からの疎外が主観的幸福感に及ぼす影響に関する研究(北川夏樹、他)」によると、共同体(会社組織など)から疎外されているという意識を持つことで、その人の主観的幸福感が低くなる傾向にあるとのことです。
客先常駐エンジニアは、自社以外の場所で放置されているという疎外感により幸福感が低くなると言えるでしょう。
つまり、放置されると不幸になると言い切っても過言ではないでしょう。
これは勿論客先の環境にもより、社員同様に扱ってくれることも無きにしもあらずなので、100%不幸になるとは言い切れません。
しかし、「どうせ外注でしょ」という姿勢のクライアントが多いのも事実です。ですから、客先常駐エンジニアはかなり高い割合で不幸な気分を感じているのです。
不幸な気持ちを抱えながら、何カ月、何年も働ける訳はありません。SES会社の離職率が高いのも頷けるところです。
放置された時の対処方法は?
現場の人とコミュニケーションを取る
相手が上手く仕事を投げられないのであれば、こちらから「~をやりますよ」と提案してみることをおススメします。
これは当たり前のように見えますが、意外と出来ていないことが多いものです。何度か試してみることをお勧めします。まず試してみて駄目なら、次の手段を考えましょう。
なお、相手に仕事が振りにくいと思われている可能性もあります。お昼ごはんを一緒にとる、飲み会に行くなどして、アイスブレークしましょう。これが上手くいけば客先常駐の疎外感を大分和らげることが可能になります。
上司や営業担当に現場変更を含めた相談する
上記で解決しない場合は、上司や営業担当に話を持っていくこともやむなしでしょう。
ただし、これは現場の人間を飛ばす”直訴”の形になりますので、現場の人間関係に影響を及ぼす可能性もあります。上記のような形で予め努力をしておく方が良いでしょう。
これでも放置される状況が続くのであれば、いよいよ現場変更のお願いをすることになります。
とはいえ、私の経験上現場変更が成功する確率は少ないように思われます。自社が恐れるのはクライアントとの関係に影響が及ぶことです。上司から「お前に責任感はないのか?」と正に責任転嫁されることになるでしょう。
ですから、この場合はもはや転職前提の玉砕覚悟で臨む必要があります。それだけの気合をもってことに望む必要があります。
なお、派遣エンジニアが営業担当に連絡する場合は、メールで愚痴を書き連ねるだけではなく、しっかりと具体的な行動を依頼しましょう。具体的には、「折り返しで連絡下さい」「相談したいので一度来訪して頂けませんか?」という形で伝えるようにしましょう。
派遣会社の営業担当は何人もの派遣社員を担当していますし、採用や契約更新で忙殺されています。ですから、ただ単にメールを出すだけでは報告とみなされる可能性があります。
客先常駐エンジニアを辞める
もはや我慢がならない!という時は転職で客先常駐エンジニアから卒業することを考えた方が良いかもしれません。
放置されるそもそもの発端はSESという人月商売にあると言っても過言ではありません。
これは旧来からのSIerビジネスを前提としているものですが、その一方で、現在はベンチャー企業から中小企業に至るまで、自社サービス開発を行っている企業が非常に多くなっており、特にWeb系のエンジニアの需要が増えています。
株式会社リクルートキャリアの2018年12月調査では、SEの求人倍率が3.13倍のところ、インターネット専⾨職(Webエンジニア含む)の転職求人倍率は3.92倍でした。言ってしまえば、SEであれば募集人数が3名のところ、Webエンジニアであれば4名になるということです。
また、Web系のカリキュラムを中心としたプログラミングスクールであるテックキャンプの卒業生のなんと61.3%が自社サービス開発の会社に就職しています。
このように、自社サービス開発をしている会社の間口が広がっており、わざわざ客先常駐をする意味合いは薄れています。
学習期間だと思って割り切る
きっちり定時に帰って勉強に時間を割くということも一つです。
エンジニアとしてスキルアップを狙うのであれば、資格の勉強や夜間やオンラインでのプログラミングスクールが良いでしょう。資格取得と言う目標を設定することができますし、プログラミングスクールでは体系的に技術を学ぶことができます。
資格の勉強としては、Oracle等の民間系(ベンダー系)の資格がおススメです。理由は、資格を持っていると、次の現場を間接的にコントロールできるからです。
SESや派遣の世界では、スキル見合いで単価や現場が決まるため、経験・技術ありません!でもやる気だけはあります!ではどの現場に入れられても文句は言えません。運用監視の現場で放置ということも起こりうる訳です。
一方で、Javaの資格やRubyの資格を持っているというのであれば、そういった技術者を必要としている案件に投入されやすくなります。つまり、間接的に現場を選べるということですね。
力試しをする
もし客先常駐で放置されているけど仕事は沢山あるという状況下であれば、逆転の発想をして会社に頼らず独力で働けるかどうかの力試し期間として考えてみるのも手です。
実際に私は、一人で炎上プロジェクトに乗り込んで現場の人に実力を認めさせ、要員の追加投入を勝ち取っている客先常駐エンジニアを知っています。
このようなしっかりとした実力のあるエンジニアであれば、会社が潰れても他の会社から引く手あまたですし、自分で会社を立ち上げることも不可能ではありません。
正に力試しとなりますが、逆転の発想をして頑張ってみてはどうでしょうか?